小林良祐1、川端麗香2、寺川純平3、杉山真言4、森田純代1、堀居拓郎1、畑田出穂1, 5*（1群馬大学・生体調節研究所・ゲノム科学リソース分野、2群馬大学・未来先端研究機構・統合腫瘍学研究部門、3麻布大学・獣医学部、4北里大学・獣医学部、5群馬大学・未来先端研究機構・ウイルスベクター開発研究センター、*責任著者）
概要
本研究所のゲノム科学リソース分野の小林良祐研究員、畑田出穂教授らの研究グループは、子宮におけるRNAメチル化修飾制御がマウス胚着床の成立に不可欠であることを示しました。
近年、RNA分子のメチル化修飾の一つであるN6メチルアデノシン（m6A）が様々な生命現象や疾患病態を制御するエピジェネティクス機構として注目を集めています。今回我々は、RNA m6A修飾に重要なMettl14という遺伝子を子宮特異的に欠損させた遺伝子改変マウスを作出し、妊娠におけるm6A修飾の重要性を解析しました。その結果、Mettl14を欠損した雌マウスでは胚が子宮に着床することができず不妊となることが明らかとなりました。マウスが着床不全になる原因について詳細に解析したところ、正常な妊娠では抑制される必要がある子宮組織でのエストロジェン応答性シグナルがMettl14欠損マウスの子宮では異常に活性化しており、その結果、子宮が胚を受容することができないことが示唆されました。またMettl14欠損マウスの子宮では自然免疫応答も異常に活性化し、マクロファージなどの免疫担当細胞が集積していることも明らかになりました。
本研究の成果は、子宮におけるRNA m6A修飾制御が胚着床の成立に不可欠であることを示し、習慣性流産をはじめとした妊娠初期流産の診断や治療法の開発に向けた研究への展開が期待されます。本研究は科研費、および生命科学・創薬研究支援基盤事業「BINDS」「ゲノム、エピゲノム編集疾患モデル動物の作出支援」による支援のもと行われました。
原著情報
Kobayashi R, Iwakawa-Kawabata R, Terakawa J, Sugiyama M, Morita S, Horii T, Hatada I. Mettl14 deficiency in murine uterus aberrantly activates estrogen receptor α signaling and innate immune responses and results in implantation failure. FASEB J. 2023 Aug;37(8):e23093
オンラインURL
https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1096/fj.202300735R
