群馬大学・秋田大学連携グローバルCOEプログラム、生体調節シグナルの統合的研究


「生体調節シグナルの統合的研究」拠点形成の意義

群馬大学理事(研究・国際交流担当)小澤 瀞司

この度きびしい審査を経て、グローバルCOEプログラムの生命科学分野で、群馬大学と秋田大学の連携による「生体調節シグナルの統合的研究」が採択されました。丁度、今年の前半は、経済財政諮問会議の民間議員による問題提起に始まり、「大学・大学院への投資における選択と集中の強化」、「研究大学と教育大学の分離」、「地方大学の淘汰」等に関して、激しい議論が闘わされていた時期であり、そのさなかに、代表的な地方大学である両大学に、世界的教育研究拠点を形成する力のあることが広く認知されたことは、地方にあっても特色ある研究の推進とそれを担う人材の育成のために日夜努力を重ねている多くの大学人に勇気と希望を与えるできごとであったと思われます。

群馬大学は、今まで、内分泌学と神経科学の研究で、多くの実績を挙げてきました。内分泌学研究に関しては、群馬大学医学部に「附属内分泌研究施設」が設置されたのが、1951年であり、これが1963年に大学附置研究所「群馬大学内分泌研究所」に昇格し、1994年に現在の「生体調節研究所」に改組されました。この間、これらの施設と研究所は我が国の内分泌学研究で中心的役割を果たして来ました。また、神経科学研究では、1965年に、医学部に「附属行動医学研究施設」が設置され、当時としてはきわめて先駆的な行動の神経科学的基盤に関する研究が推進されました。この施設の研究者は、2003年(平成15年)に大学院医学系研究科医科学専攻が部局化されるときに、医学部の他の神経科学研究者と一体となり、我が国でも有数の規模を持つ神経科学研究グループを形成するに至りました。平成14-18年には、内分泌学と神経科学の融合的発展を目指す、21世紀COEプログラム「生体情報の受容伝達と機能発現」が実施され、神経伝達物質とホルモンの放出機構の分子・細胞生物学的研究等で多くの成果を挙げ、高い評価を得ることができました。

一方、秋田大学は、新進気鋭の多くの優れた研究者を擁し、免疫系とがん生物学の研究分野で、輝かしい研究実績を挙げてきました。群馬大学のプログラムが実施されていた平成14-18年に、秋田大学では21世紀COEプログラム「細胞の運命決定制御」が実施され、脂質シグナルによる免疫機能と細胞増殖の制御等で画期的な研究成果が次々と発表されました。私たち、群馬大学の神経・内分泌系の研究者の側から秋田大学のCOEプログラムの研究活動を見ると、神経・内分泌・免疫系の三つの生体調節系及び細胞の増殖制御には共通の制御機構があり、分子・細胞レベルで見れば、リガンド・受容体複合体形成によるシグナルの受容と変換、イオンシグナルや脂質メディエーターの産生、リン酸化カスケードの制御、転写因子の活性化等できわめて共通した機構が働くとともに相互に活発なcross-talkの行われていることがいることが窺われます。

本グローバルCOEプログラムでは、群馬大学と秋田大学がそれぞれの強みを持ち寄り、生体の三大調節系である神経系・内分泌系・免疫系の研究を系の枠を超えて統合的に進めることにより、生体調節系の研究をさらに深化・発展させることを目標としています。このような総合的なアプローチは多くの難治性疾患の病態解明と治療戦略の構築に最も有効なものと思われます。「神経系・内分泌系・免疫系の統合的研究」拠点形成を目指す、世界的にもきわめてユニークな研究グループによる今後5年間の活動からは、生体調節系に関する多くの発見と新しい概念の創出が期待されます。また、このような広い視野をもつ研究拠点の中で、次の世代を担う優秀な研究者を育成することも本プログラムの重要な課題と考えております。皆様のご指導とご支援をお願いする次第です。