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氏名 | 今井 由美子 IMAI YUMIKO |
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所属 | 秋田大学大学院医学系研究科情報制御学・実験治療学講座・教授 | |
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ラボURL | http://www.med.akita-u.ac.jp/~yakuri/index.html |
現在、豚インフルエンザウイルスが変異してヒトからヒトに感染する新型インフルエンザ(2009年型H1N1インフルエンザ)が発生し、メキシコでは二百名近くの死者を出しました。その大半は、発症まもなくから胸部X線で肺が真っ白になり、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)を起こして死亡しています。一方、2003年以来H5N1 鳥インフルエンザのヒトへの感染が多数報告され、このH5N1ウイルスも新型インフルエンザに変異するのではないかと危惧されています。通常冬季に流行る季節性インフルエンザの死亡率は0.01% 程度ですが、H5N1鳥インフルエンザのヒトでの死亡率は60% にも及びます。この高い死亡率の原因もARDSです。ARDSは制御範囲を逸脱した過剰炎症で特徴づけられる急性肺損傷であるが、今までのところH5N1鳥インフルエンザをはじめとした高病原性インフルエンザウイルスがこのような重篤なARDS/肺損傷を引き起こすメカニズムに関しては不明な点が多く見られます。従って、新型インフルエンザに罹り、ARDSを発症してしまうと、有力な治療法がなく救命は困難を極めています。現在、新型インフルエンザに対するパンデミックワクチンの製造が進められていますが、ワクチンの製造には通常半年近くかかります。従って、ワクチンや抗ウイルス薬に加え、高病原性インフルエンザ分子病態そのものを解明し重症化を阻止するような治療法を開発することが重要であると考えます。
私たちは、新型インフルエンザウイルスに感染した患者が集中治療室 (ICU)で高度救命治療を受ける状態をマウスで再現可能なマウスICUモデル(図1)を独自に確立し、これを用いて、酸化ストレスを介したリン脂質の酸化修飾がインフルエンザの重症化の要因となっていることを見出しました。現在、リン脂質代謝経路の上流で機能しているホスホリパーゼA2を中心としたリン脂質代謝系、ならびに細胞膜シグナル伝達分子として機能して細胞の分化、増殖、小胞輸送など多彩な生命現象を支えているイノシトールリン脂質代謝系に焦点を当てて、これらリン脂質代謝関連遺伝子欠損マウスを用いて、高病原性インフルエンザの分子病態におけるリン脂質代謝物の制御機構を包括的に解析しています。
併せて、P2/P3感染実験室に二光子励起レーザー顕微鏡を用いたマウスin vivoイメージングシステムを立ち上げ、人工呼吸したマウスを開胸してマウスが生きた状態で肺を体壁外に露出させ、これを可視化してインフルエンザ感染に伴うマクロファージ、樹状細胞、T細胞をはじめとした宿主の免疫細胞の空時間的動態、ウイルスとの相互作用等を解析しています(図2)。今後さらに細胞膜リン脂質の修飾を検出できるプローブを用いて、ウイルス感染に伴うリン脂質の変化をin vivoで可視化することを計画しています。
代表的な論文