群馬大学・秋田大学連携グローバルCOEプログラム、生体調節シグナルの統合的研究


メンバー紹介

澤田 賢一 氏名 澤田 賢一 SAWADA KEN-ICHI
所属 秋田大学大学院医学研究科・内科系専攻・教授
E-mail  
ラボURL http://www.med.akita-u.ac.jp/~naika3/index.html

研究テーマ

ヒト正常造血幹・前駆細胞由来樹状細胞の病態・生理学的意義

ヒト造血幹・前駆細胞はCD34分子を指標として純化することができる。我々は、CD34+細胞の大量純化法と純化CD34+細胞の系特異的分化・増殖誘導法を開発した(図A)。

その結果、高純度で分化段階が均一なヒト造血前駆細胞を大量に回収することが可能となり、これまで株細胞もしくはヒト以外の動物細胞を用いて行なわれていたシグナル伝達に関する研究を、ヒト正常前駆細胞に置き換えることができた。これまでに、ヒト正常赤芽球系前駆細胞の生存と死に関するシグナルのクロストークの一端を明らかにしてきた(図B)。

その過程で、造血因子と腫瘍壊死因子(TNF-α)の共存下では、造血因子に対応する造血前駆細胞とともに樹状細胞が発生すること、また、さらに興味深いことに、発生した樹状細胞は自己の造血前駆細胞を貪食することを発見した(図C)。この現象は図に示した巨核球系にとどまらず、赤芽球系や顆粒球系にも認められることから、造血系における普遍的な現象である。

樹状細胞はT細胞の制御を介して免疫系のホメオスターシスを維持しており、その破綻は自己免疫疾患や免疫異常を惹起する。CD34+細胞由来樹状細胞による自己造血前駆細胞の貪食は、骨髄を“場”とする、免疫系ホメオスターシスの存在を強く示唆する。さらに樹状細胞は種々のサイトカインを産生することから、免疫系のみならず、造血系をも直接制御している可能性が推定される。例えば、造血系の自己免疫疾患である再生不良性貧血や赤芽球癆の病因は未だ不明であるが、自己造血前駆細胞を貪食するCD34+細胞由来樹状細胞の生理学的、病態学的意義を明らかにしていくことによって、これらの造血系自己免疫疾患の本態を明らかにできる可能性がある。

一方で、血球貪食自体が重大な病態を引き起こす疾患として血球貪食症候群がある。本疾患は、炎症、感染などを契機として自己血球の貪食による血球減少、発熱などを主徴とする重篤な病態である。しかし、貪食細胞の細胞起源は未だ不明で、その治療法も確立されていない。我々は、貪食細胞の細胞起源が樹状細胞である可能性を示唆している(図D)。これらの研究を通して、CD34+細胞由来樹状細胞に起因する種々の疾患の同定や治療法の確立を目指す。


ヒト正常造血幹・前駆細胞由来樹状細胞の病態