群馬大学・秋田大学連携グローバルCOEプログラム、生体調節シグナルの統合的研究


メンバー紹介

佐々木 雄彦 氏名 佐々木 雄彦 SASAKI TAKEHIKO
所属 秋田大学医学部病理病態医学講座感染制御学分野・教授
E-mail E-mail
ラボURL http://www.med.akita-u.ac.jp/~bisei/index.html

研究テーマ

生体調節シグナルとしてのイノシトールリン脂質

ホスファチジルイノシトールの3、4、5位水酸基が可逆的なリン酸化を受け、イノシトールリン脂質(PIs)と総称される8種類のリン脂質が生じ、細胞膜に存在します。細胞内には様々なPIs 結合蛋白質が存在し、それらの活性や局在を制御することで、PIs は広汎な生体機能の調節に関与します。PIsの相互変換には24の反応経路を考えることができますが、PIs代謝酵素は既知のものだけでも50を上回ります。生理活性脂質であるPIs の精緻な代謝制御がうかがわれます。

私たちは、「PIs代謝の乱れはどのような細胞機能異常や病態を招くのか?」、「なぜ生体内には多くのPIs代謝酵素アイソフォームが存在するのか?」といった点に興味をもって研究を進めています。これまで主にPI(3,4,5)P3に着目した解析を進め、これらの疑問に纏わる興味深い知見を得ています。その結果として、PI(3,4,5)P3代謝酵素を標的とした、抗炎症薬、抗がん剤などの開発も進みつつあります。一方で、他のPIsについての知見は未だ乏しい現状です。PIs代謝系を包括的に理解する研究が、私たちの研究室で進んでいます。私たちが採っている方法論を以下に示します。

1. ノックアウトマウス、ノックダウン細胞
脂質は分子生物学のセントラルドグマの範疇外にあります。分子生物学や遺伝学の手法を適用するために、PIs のキナーゼやホスファターゼの遺伝子欠損マウスを作製しています。特定の PIs 代謝酵素欠失により惹起される細胞機能異常や病態を明らかにし、その分子メカニズムを解明します。

2. PIsの動態解析
多くの場合は試験管内での活性や一次配列情報から、PIs 代謝酵素であると予想されるタンパク質の遺伝子破壊を行います。ノックアウトマウスの臓器や細胞を用いた生化学的な解析によって、着目したタンパク質が細胞内で実際に触媒する PIs 代謝反応を確定します。最近開発したPIs可視化マウスはこの解析に有用で、9カ国に跨る研究室で広く活用されています。

3. ヒト疾患との関連
PIs 代謝酵素欠損マウスで表れる異常を主徴とするヒト疾患に着目しています。ヒトでの PIs 代謝酵素遺伝子異常の探索、病理組織での酵素活性や PIs の定量、局在解析を行います。

4. PIs 代謝酵素の阻害剤・活性化物質の探索
PIs 代謝酵素に作用するタンパク質や低分子化合物を見出し、癌、炎症性疾患、神経疾患、生活習慣病などの予防、診断、治療法の確立を目指します。


生体調節シグナルとしてのイノシトールリン脂質