群馬大学・秋田大学連携グローバルCOEプログラム、生体調節シグナルの統合的研究


メンバー紹介

原田 彰宏 氏名 原田 彰宏 HARADA AKIHIRO
所属 群馬大学生体調節研究所・教授
E-mail E-mail
ラボURL http://traffic.dept.med.gunma-u.ac.jp/

研究テーマ

細胞構造分野では、細胞内蛋白輸送とそれによる細胞の極性形成のメカニズムを目指して、以下のテーマで研究を進めています。

1)細胞の極性形成のメカニズムの研究

細胞の極性は細胞の機能に重要な役割を持つ。上皮細胞は頂端側(apical)、側底側(basolateral)という極性を持つことで、分泌などの機能を果たす。同様に神経細胞も軸索、樹状突起という極性のある構造をとることが神経伝達にとって必須である。
このような極性を持つ細胞では、様々な蛋白が、方向性のある輸送(極性輸送)によって目的地に運ばれてその役割を果たす。この極性輸送は、1) ゴルジ装置における輸送小胞への蛋白の分配、濃縮 2) 輸送小胞の目的地への輸送 等で成り立つと考えられる。そこで我々は細胞の極性形成のメカニズムを解明するために、細胞の極性形成や極性輸送に重要と考えられる蛋白の遺伝子のノックアウトマウスを作成しており、作成したマウスを様々な細胞生物学的解析法を用いて遺伝子改変マウス個体、細胞において極性形成にどの様な変化が生じるのかといった研究を行っている(図1)。

マウスの比較

図1
A 正常なマウス(左)とRab8欠損マウス(右)の小腸の比較
小腸(矢印)がRab8欠損マウスでは膨張していることが分かる。
B 正常なマウス(左)とRab8欠損マウス(右)の小腸吸収上皮細胞におけるapical蛋白の輸送について
正常なマウスではapicalに分布するトランスポーターにより栄養素が細胞内に取り込まれるが、Rab8欠損マウスでは細胞内にトランスポーターが蓄積してapical表面への分布が著しく低下するため栄養素が吸収できない。

2)線虫C. elegansを用いた細胞内タンパク質輸送の分子メカニズムの解析

C. elegans はわずか1000個程度の細胞から構成されているが高等動物と同様に神経、筋肉、腸、生殖系などの組織を兼ね備えており、遺伝学的解析、RNAi 法による逆遺伝学的解析も容易である。さらに体が透明なため、生きたまま発生や細胞系譜、GFPなどを用いたタンパク質の解析が行えるなど多くの利点が挙げられる。そこで、私達は C. elegansの腸管細胞の極性形成における小胞輸送の役割に注目し、すでに極性化した細胞内だけではなく、発生過程において極性が形成されつつある細胞内におけるタンパク質の動態を生きた個体内で観察することによって、細胞極性形成における極性輸送の分子メカニズムの解明を目指している(図2)。C. elegans は目的遺伝子の発現を低下させるRNA干渉法 (RNAi) が容易にできるため、網羅的に細胞極性関連因子を探索することが可能である。このようにして得られた因子について線虫、そして将来的にはマウスの両モデル生物を用いて解析を進めることによって、細胞極性形成にはたらく動物共通の分子メカニズムが明らかとなると期待される。

fig2

図2
線虫 C.elegans の腸細胞において頂端面側および側底面側に局在化するタンパク質にそれぞれ蛍光タンパク質を結合し、観察した(左図)。頂端面タンパク質(中央図)は管腔側に局在し、側底面タンパク質(左図)はそれ以外に局在することから、 C.elegans の腸細胞において極性が厳密に維持されているのがわかる。